中小企業の経営改善を進める中で、資金繰りの悪化や事業再編のため、社長個人が所有する不動産を売却して会社に資金を投入するという選択肢が浮上することがあります。
しかし、不動産の売却には「譲渡所得税」という税金が伴います。この譲渡所得税の仕組みを理解し、適切なタイミングで売却を進めなければ、思わぬ税負担が発生し、資金繰りをさらに悪化させてしまう可能性もゼロではありません。
公認会計士上原佑介事務所では、これまで数多くの中小企業様の経営改善や資産売却を税務面からサポートしてまいりました。今回は、経営改善を目的とした不動産売却における譲渡所得税のポイントについて、Q&A形式でわかりやすく解説します。
不動産を売却して利益が出た場合、その利益に対して「譲渡所得税」が課税されます。譲渡所得税は、所得税、住民税、そして復興特別所得税から構成されます。
また、不動産売買契約書には、契約金額に応じた「印紙税」を貼付する必要があります。
このようなケースで「消費税」がかかることはまれなのでここでは省略します。
譲渡所得税の計算は以下のステップで行われます。
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この「譲渡所得」がプラスになった場合にのみ、税金が発生します。
不動産を売却した年の1月1日時点での保有期間が5年以下か、5年超かによって、適用される税率が変わります。
不動産の保有期間による税率の違い
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※上記は2037年までは復興特別所得税を含んだ税率です。
ご覧の通り、5年超所有している不動産の方が、税率が約半分に抑えられます。これは、長期的な資産形成を促すための優遇措置です。
取得費の把握: 古い不動産の場合、取得費が不明なケースがありますが、その場合は売却代金の5%が取得費と見なされてしまい、譲渡所得が過大に計算されることがあります。契約書や領収書など、取得費を証明できる書類を徹底的に探すことが重要です。
譲渡費用の計上漏れ防止: 仲介手数料だけでなく、印紙税、測量費用、建物解体費用など、売却にかかった費用は漏れなく計上しましょう。
特定の特例措置の検討:
居住用財産の3,000万円特別控除: 社長個人の自宅を売却する場合、一定の要件を満たせば、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例があります。この場合、「不動産売却で税金が発生しない」というケースも実際にあり得ます。ただし、あくまで「居住用」であることや、他の特例との併用制限があるため注意が必要です。
保証債務の履行のための資産の譲渡の特例:中小企業の経営改善を進める中で、社長個人が会社の借入金に対して保証人となっているケースは少なくありません。もし会社が債務不履行に陥り、社長個人がその保証債務を履行するために、やむを得ず個人資産(不動産など)を売却した場合、一定の要件を満たせば、その売却によって生じた譲渡所得について、税負担を軽減できる特例です。具体的には、保証債務の履行のために充てた金額を限度として、譲渡所得がなかったものとみなされる場合があります。ただし、この特例の適用には厳格な要件があり、事前に詳細な確認が必要です。
納税資金の確保: 売却益が出た場合、翌年に納税が発生します。売却代金が手元に入っても、その中から納税資金を確保しておくことが極めて重要です。納税資金を考慮せず売却資金を全て事業に回してしまい、いざ納税時期になって資金不足に陥るケースも散見されます。売却の計画段階で、税額シミュレーションを行い、納税資金を確実に確保するよう準備しましょう。
不動産売却は、経営改善のための有効な手段となり得ます。しかし、その税務上の影響は大きく、個別の状況によって適用される特例や計算方法が異なります。特に、社長個人資産の売却と会社への資金投入の関係は、税務リスクを伴う場合もあります。
公認会計士上原佑介事務所では、お客様の状況を丁寧にヒアリングし、最も有利な税務上の選択肢をご提案いたします。不動産売却をご検討の際は、ぜひ私たちプロフェッショナルにご相談ください。適切な税務戦略で、貴社の経営改善を強力にサポートいたします。